生活習慣病とは、日々の悪い生活習慣の積み重ねによって引き起こされる病気のことです。
日本人の2/3近くがこの生活習慣病で亡くなっています。
2017年の患者調査によると、医療機関を訪れる患者総数は、高血圧性疾患が約994万人、糖尿病が約329万人、心疾患(高血圧性疾患を除く)が約173万人、脳血管疾患が112万人、そして悪性新生物が約178万人となっています。
これらの疾患は、食事や運動などの生活習慣との関連が明らかであり、一次予防に重点を置くとともに、二次予防としてメタボリックシンドロームの予防に重点を置いた健康診断や保健指導が健康診断の場で行われるようになってきています。
虚血性心疾患
虚血とは、動脈の血流が途絶えた状態のことです。虚血性心疾患には、冠動脈の血流が一時的に途絶える狭心症と、血流が完全に途絶える心筋梗塞の2種類があります。
冠動脈は心筋に栄養を供給する血管で、この血管が虚血状態になると胸痛発作が起こります。特に心筋梗塞は、心筋細胞の壊死を伴うため、身もだえするような激しい痛みを伴います。
冠動脈はなぜ詰まるのでしょうか?原因は、ほとんどの場合、動脈硬化です。また、脂質異常症(高脂血症)、高血圧症、糖尿病、喫煙なども動脈硬化の原因となります。そのため、生活習慣を改善することが大切です。
狭心症は、胸痛発作が15分以内に治まるのが特徴です。ニトログリセリンの舌下投与で胸痛は治まります。心電図ではST低下を認めますが、発作が起きるまでは異常波形は認められません。
したがって、確定診断にはホルター心電図や負荷心電図が必要である。
心筋梗塞は、胸痛発作が30分以上続くのが特徴です。ニトログリセリンでは効果がないため、モルヒネで痛みを和らげます。心電図ではST上昇、血液検査ではCK、AST(GOT)、LDHの上昇を認めます。
虚血性心疾患では、胸痛発作のほかに、左前胸部から頸部、左上肢への放散痛(関連痛)を生じることがあります。
高血圧症
私たちの体は、約60兆個の細胞からできています。
その細胞に酸素や栄養を届けるのが血液であり、その血液を送り出しているのが心臓です。
心臓が収縮するときに血管にかかる圧力が収縮期血圧で、心臓が拡張するときに血管にかかる圧力が拡張期血圧です。
高血圧の大部分は、原因不明の本態性高血圧によるものです。
高血圧の要因としては、食塩の過剰摂取、肥満、喫煙、多量の飲酒、ストレスなどがあげられます。
また、加齢に伴い動脈硬化が進行するため、高血圧症は老年期に発症しやすいと言われています。
特に、収縮期血圧が上昇することが特徴です。
原因がわかっている場合は、二次性高血圧と呼ばれます。
原因により、さらに内分泌型、腎臓型、血管型、脳中枢神経型に分類されます。その他、薬剤の副作用や妊娠なども原因となります。
高血圧を放置すると、脳出血やくも膜下出血を起こすことがあるので、早期の治療が必要です。
脳血管疾患
一般的には脳卒中といい、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などをいいます。
要介護になる人の原因の第2位(2016年)だそうです。ある程度予防できるものなので、できれば予防しておきたいものです。
脳梗塞には、血栓症と塞栓症の2種類があります。
前者は、動脈硬化により動脈の血流が乱れ、脳細胞が壊死します。前者は一過性脳虚血発作(TIA)の前兆となることがあります。
後者は、心臓の病気(僧帽弁狭窄症、心房細動)が原因で左心房にできた血栓が脳の動脈を閉塞することで突然起こります。
脳出血は、高血圧や動脈硬化が原因で脳の動脈が破裂し、麻痺や失語などの症状を起こします。
くも膜下出血は、脳の表面を覆っている膜の一つであるくも膜の下に出血したものです。
ウィリス動脈輪の動脈瘤の破裂が原因となることが多いです。
症状は、突然の激しい後頭部の痛みと髄膜刺激症状(側頭硬直、ケルニッヒ徴候など)で、意識障害や嘔吐を伴うこともあります。
糖尿病
ブドウ糖(グルコース)は私たちの体のエネルギー源で、ご飯や芋、お菓子などの炭水化物に多く含まれています。
私たちが食べたブドウ糖は、血液に乗って全身に運ばれ、脳や内臓、筋肉などで使われ、生命を維持するために使われます。
この血液中のブドウ糖のことを血糖値といいます。血液中のブドウ糖の量を血糖値といいます。血糖値は食後一時的に上昇しますが、1~2時間で下がります。
血糖値は食事以外の要因でも影響を受けますが、常に一定の範囲に保たれています。
血糖値を一定の範囲に保つのは、インスリンなどのホルモンです。
血糖値を上げる働きをするホルモンはグルカゴンなどいくつかありますが、インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンです。インスリンは膵臓で作られます。
食事で血糖値が上がると、膵臓からインスリンが分泌され、インスリンが全身の細胞にブドウ糖をエネルギーとして取り込ませるため、血液中のブドウ糖が減少し血糖値は下がります。
糖尿病は、インスリンが分泌されない、あるいは正常に働かない状態です。
糖尿病は、その原因によって大きく2つのタイプに分けられます。
①インスリンを分泌する膵臓のB(β)細胞が何らかの原因で破壊され、インスリンが分泌されなくなった状態です。これを1型糖尿病といいます。
②加齢、運動不足、過食、肥満などの生活習慣病により、インスリンの効きが悪くなった状態です。これを2型糖尿病といいます。日本ではほとんどの人が2型糖尿病です。
糖尿病の成因による分類と特徴
分類 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
発症機序 | 主に自己免疫を基礎として膵臓のランゲルハンス島 β細胞の破壊やHLAなどの遺伝子に何らかの誘因・環境因子などが加わることで起きる。 | インスリンの分泌の低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に過食、運動不足などの環境要因が加わってインスリン作用不足を生じて発症する。 |
家族歴 | 家系内の2型糖尿病の場合より少ない。 | 家系内血縁者に糖尿病患者がいることがある。 |
好発年齡 | 小児~思春期が多い (中年以降でも認められる)。 | 40歳以上に多い。 若年発症も増加している。 |
肥満 | 関係ない。 | 肥満や肥満の既往が多い。 |
自己抗体 | GHD 抗体、IAA、ICA 抗体などの陽性率が高い。 | 陰性 |
糖尿病の問題は、血液中のブドウ糖が多すぎると血管が傷つき、さまざまな合併症が起こることです。
2型糖尿病の3大合併症は、微小血管の神経障害、網膜症、腎症です。
神経障害は四肢のしびれから始まり、重症化すると痛みを感じなくなり、足を怪我しても気づかないことがあります。網膜症は失明に至ることもあり、腎症は末期腎不全に至り、透析を余儀なくされることもあります。
糖尿病により細胞がブドウ糖を取り出せなくなると、ブドウ糖の代わりに脂肪が細胞のエネルギー源として使われ、ケトン体という老廃物が作られ、尿中に検出される。ケトン体が血液中に蓄積されると、ケトアシドーシスという状態を引き起こし、昏睡状態(いわゆる意識不明)に陥ることがあります。
適切な運動習慣とカロリーコントロールで、糖尿病を予防することが大切です。
糖尿病の診断基準
2010年7月より、糖尿病の新しい診断基準が導入されました。大きな変更点は、これまで糖尿病診断の補助的な位置づけであったHbA1c(グリコヘモグロビン)が、基準の一つとして独立して追加されたことです。これにより、従来の血糖値検査とHbA1c測定の両方で異常値を示した場合、1回の判定で糖尿病と診断することができるようになりました。参考までに、実際の判定基準を以下に示します。
①早朝空腹時血糖 126mg/dL以上
②75g経ロブドウ糖負荷試験 (OGTT) 2時間後血糖値 200mg/dL以上
③随時血糖 200mg/dL以上
④HbA1c : 6.5%以上NGSP (国際標準値)
1回の判定で糖尿病と診断される条件
・血糖値とHbA1cとも糖尿病型 (①~③ いずれか④)
・血糖値と典型症状か網膜症 ( ①~③ いずれか典型症状か網膜症)
2回の判定で糖尿病と診断できる条件
・1回目で血糖値、 2回目で血糖値かまたはHbAlc
・1回目でHbA1c、2回目で血糖値 (④+①~③いずれか)
HbA1cとは?
ヘモグロビンにブドウ糖が結合したグリコヘモグロビンをHbA1cといい、基準値は6.2%未満です。
血糖値が高い状態が長く続くと、ヘモグロビンの周りに粘着性のあるブドウ糖が結合し、HbA1cが形成されます。
しかし、HbA1cは瞬間的に突然できるものではなく、1~2カ月かけてゆっくりと形成されます。したがって、現在のHbA1cは、すでに1~2ヶ月間血糖値が高い状態であることを意味し、診断の基準となります。
血糖値自己測定
糖尿病患者が自ら自己採血を行い、自己の血糖値を測定する方法として血糖自己測定(SMBG) があります。 インスリンの自己注射を行っている患者の場合、 常に血糖値の変動を把握することができ、 良好な血糖コントロールを維持できます。
低血糖の症状
血糖値(mg/dL) | 症 状 |
40~50 | 空腹感、 軽い頭痛、 あくび |
30~40 | あくび、 倦怠感、 無表情、会話の停滞、学習力減退、冷や汗、脈が多い、腹痛、ふるえ、 顔面蒼白または紅潮 |
25~30 | 奇異な行動、意識喪失 (低血糖昏睡前期) |
25以下 | けいれん、深い昏睡 |
糖尿病の治療
1型糖尿病にはインスリン療法が絶対的な適応となります。
インスリン療法の基本は、健康な人に見られる血中インスリンの生理的変動パターンを再現することです。そのために、24時間分泌される基礎分泌と、食事のたびに分泌される追加分泌を補うために、さまざまなインスリン製剤(速効型、超速効型、中間型、持効型)が使用されます。
一方、2型糖尿病は食事療法と運動療法が基本的な治療法です。(これらの療法で血糖値がコントロールできない場合は、経口血糖降下剤による薬物療法が行われます)。
食事療法の基本は、標準体重と1日の活動強度から1日の摂取エネルギーを計算し、適切にカロリーをコントロールすることです。
運動療法としては、ウォーキング、水泳、 体操などの適切な有酸素運動を行います。 適切な運動療法によってインスリン抵抗性改善の効果が期待できます。
1日の総エネルギー摂取量
⇒ 標準体重 [22×身長 (m)×身長 (m)] ×生活活動強度
日常の労作の程度と消費エネルギー
労作の強度 | 職種や状態 | 1日の消費エネルギー/標準体重(kg) |
軽い | 老人、専業主婦 (幼児保育なし) 管理職、一般事務(短距離通勤)、研究職、作家 | 25~30kcal |
中等度 | 主婦 (乳幼児保育)、外交、集金員、一般事務(長距離通勤) 教員 医療職、製造業、小売店主、サービス業、販売業、輸送業 | 30~35kcal |
やや重い | 農耕作業、 造園業、漁業、運搬業、 建築・建設業 | 35~40kcal |
重い | 農耕・牧畜・漁業のハイシーズン、建築・建設作業現場、スポーツ選手 | > 40kcal |
依存症 (アルコール ニコチン・薬物)
“酒は百薬の長 “という言葉があります。本当に飲酒は人を長生きさせるのでしょうか?
酒を飲まないグループと適度に飲むグループとでは、適度な飲酒が確かに長寿と関係していることが研究で明らかにされています。
その結果、適度な飲酒をする人は長生きすることがわかりました。特に、日本人に多い脳梗塞は、飲酒経験のある人の方が少ないと言われています。
これは、アルコールが血栓を形成する血小板の機能を低下させるからです。
血小板が血栓を形成する機能は、アルコールによって低下するためとされています。他にも
・HDL-コレステロール (善玉コレステロール) を増加させる
・末梢血行が良くなり、冷えを改善する
・ストレスを解消させる
・コミュニケーションの空間を作る
などの利点があります。
しかし、これはあくまでも適度な飲酒を意味するもので、大酒飲みの人は逆に寿命が短くなります。適正な飲酒量を知ることは、健康にとって何よりも大切なことなのです。
日本人の1日の適切とされている純アルコール摂取量は、20gです。
下表は適切な量を示しています。この量を超えると、悪影響が出る可能性があります。
酒の種類 | 焼酎 | ワイン | ビール | 日本酒 | チューハイ | ウイスキー |
容量 | 0.6合 (110mL) | 200mL | 500mL | 1合 (180mL) | 350mL | 60mL |
アルコールを分解するのは肝臓なので、飲酒が原因で起こる病気としては肝硬変が代表疾患です。しかし、食道や大腸などの消化管の悪性腫瘍のリスクも飲酒により高まる傾向にあります。
また、飲酒直後は血管が拡張して血圧が下がりますが、長期的に見ると高血圧の原因になります。
2011年の世界保健機関(WHO)の「世界のアルコール関連健康被害に関する報告書」によると、アルコールの有害な摂取は、世界中で毎年250万人の死亡と多数の病気や外傷の原因となっています。その影響は、特に若者や発展途上国の人々に広く及んでいます。
さらに、同報告書によると、アルコール関連死は全世界の死因の4%を占め、その大半はアルコール摂取の有害作用による外傷、がん、心疾患、肝硬変などによるものです。
ところで、人はなぜアルコールを分解すると酔うのでしょうか?
口から摂取したアルコールは、胃の中に入ります。
通常、胃は消化するだけで、何も「吸収」しませんが、アルコールは例外です。胃の中では、アルコールの10〜20%が吸収されます。同時に、水分も吸収されます。ビールが水より大量に飲めるのはこのためです。
また、胃の中にはアルコールを分解する酵素があります。アルコールは胃に直接作用するため、この酵素の活性が低い人はお酒に弱いのです。胃で吸収されたアルコールは一部が分解されて肝臓へ、胃で吸収されなかった残りの80~90%は小腸で吸収されて肝臓へ行きます。
胃や小腸から吸収されたアルコールは、肝臓でアルコール脱水素酵素(ADH)によりアセトアルデヒドに変換されます。さらにアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に分解され、最終的には二酸化炭素と水になります。
お酒を飲んでもすぐに酔うわけではありません。
アルコールの血中濃度が上昇するまでには、30分から1時間かかります。
肝臓はアルコールを一度に分解できないので、分解できなかったものがこの間に体内を駆け巡ります。
アルコールが分解されるときに発生するアセトアルデヒドは、血管を拡張させ、心拍数を上げ、吐き気や頭痛を引き起こします。
飲酒後に顔が赤くなるのは、アルコールによるものではなく、アルコールが分解された後のアセトアルデヒドによるものです。このように、アセトアルデヒドはアルコールの数倍強い生体反応を起こす有害物質であり、そのために肝障害を起こすのです。
この有毒なアセトアルデヒドを分解するALDHの機能が低下すると、有毒なアセトアルデヒドが血中に長く留まり、中毒症状を引き起こします。お酒を飲んですぐに顔が赤くなる人は、生まれつきALDHが少ないため、アセトアルデヒドが急激に血液中に流れ出し、アセトアルデヒドの作用で血管が拡張し、顔が赤くなるのだそうです。
アルコールやアセトアルデヒドを分解する酵素には遺伝的な個人差があるので、飲めない人に無理に飲ませることはしない方がいいです。
アルコールの作用のひとつに、脳を麻痺させるというものがあります。麻痺は大脳で起こる。大脳がマヒすると、興奮状態になる。酔うと大声で陽気になるのは、大脳が麻痺して大脳による神経の抑制が効かなくなるからです。
酩酊の程度は、血液中のアルコール濃度で決まります。血中濃度が上昇すると、動作が乱れ、いわゆる舌足らずや千鳥足になります。さらに血中濃度が上昇すると、意識を失い、呼吸中枢が麻痺し、呼吸が停止することもあります。通常の飲酒ではこのレベルまで血中濃度は上がりませんが、アルコール度数の高い蒸留酒(ウイスキー、ブランデーなど)を短時間で一気飲みすると、意識喪失を起こすことがあります。
メタボリックシンドローム
「近頃おなかがぽっこりしてきた」 「私も最近ベルトやズボンがきつくなってきた」、よくあるコメントですが、実はこれ、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)のサインなんです。内臓脂肪の蓄積を放置しておくと、動脈硬化が起こりやすくなるサインです。
虚血性心疾患や脳血管疾患は、基本的に動脈硬化を基盤としていることが知られています。メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満を基準に高血糖、高血圧、脂質異常が重なった状態で、動脈硬化による心臓や脳の障害リスクが極めて高くなります。
では、メタボリックシンドロームの診断基準を確認しましょう。
腹囲: 男性85cm以上、 女性90cm以上
内臓脂肪のたまり具合をみます。 BMIではなく、 腹囲で判定します。
空腹時血糖: 110mg/dL以上。なお保健指導対象者は100mg/dL以上となっています。
中性脂肪 :150mg/dL以上
HDLコレステロール: 40mg/dL未満
のいずれかまたは両方
HDLコレステロールはいわゆる善玉コレステロールのこと。 少ないと良くないので「未
満」です。
収縮期血圧:130mmHg以上
拡張期血圧:85 mmHg以上
のいずれかまたは両方
高血圧の診断基準 (140/90mmHg) より厳しい基準です。
生活習慣病については、若いときからの生活習慣を改善することでその予防、 重症化や合併症を避けることができると考え、生活習慣を見直すための手段として 「特定健康診査」の実施や、その結果、 メタボリックシンドロームと診断された人やその予備群となった人に対して、それぞれの状態にあった生活習慣の改善に向けた 「特定保健指導」を実施することとしています。