【必修問題】医療保障制度の基本

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【必修問題】看護で活用する社会保障

看護師国家試験では、出題範囲の中に、必修問題として【中項目】に医療保険制度の基本という項目があります。問われる内容は以下の通りです。

  • 医療保険の種類
  • 国民医療費
  • 高齢者医療制度
  • 給付の内容
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公的医療保険制度とは?

公的医療保険制度は、日本国民全員に加入が義務づけられている医療保険制度です。公的医療保険制度に加入しているため、患者さんはどの医療機関でも自由に受診することができ、医師も自由に選ぶことができます。

公的医療保険制度の財政構造は、被保険者と事業主が負担する保険料が約50%、地方財政と国庫からの公費が約40%となっています。その結果、総医療費に占める患者負担は1割となっています。この公的医療保険制度により、すべての国民が良質な医療を適正な費用で受けられるようになっています。

実際に治療を受けたときの具体的な自己負担割合は以下のようになっています[注1]

年齢自己負担割合
75歳以上1割負担(現役並み所得者は3割負担)
70歳~74歳2割負担(現役並み所得者は3割負担)
義務教育就学後~69歳3割負担
義務教育就学前
[注1]6歳に達する日以降の最初の3月31日まで
2割負担

公的医療保険の種類

日本の公的医療保険にはいくつかの種類があり、職業や年齢によって保障内容が異なります。

以下、主な公的医療保険の種類とそれぞれの特徴についてまとめてみました。

国民健康保険

国民健康保険は、都道府県や市町村が運営する公的な医療保険制度です。

自営業者、農家、主婦、年金生活者、無職の人など、特定の企業に所属していない人は、市区町村を通じて国民健康保険に加入しなければいけません。つまり、社会保険(健康保険)、共済保険、後期高齢者医療制度、生活保護などを受けていない人は、国民健康保険に加入する必要があります。

なお、国民健康保険には「被扶養者」という概念がないため、例えば自営業者とその配偶者の場合、夫婦それぞれが加入者であり被保険者となります。

保険料は、前年の所得、加入者数、年齢をもとに計算されるので、1人あたりの負担額は都道府県や市区町村によって異なります。

健康保険

健康保険は、特定の企業に勤める従業員とその扶養家族のための公的医療保険です。

健康保険には、3つの種類があります。大企業の社員が加入する「健康保険組合」、健康保険組合のない企業の社員が加入する「協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)」、海上で働く船員が加入する「船員保険(全国健康保険協会管掌健康保険)」です。

保険料は、4月から6月までの平均給与月額(標準報酬月額)をもとに計算され、その年の9月から翌年の8月まで適用されます。保険料は、従業員が全額を負担する国民健康保険とは異なり、従業員と事業主が折半して負担します。

また、加入には一定の条件がありますが、従業員と生計を一にする扶養家族(配偶者、父母、子など)にも健康保険が適用されます。

扶養家族の人数は保険料の計算に関係しないので、扶養家族がいる人は、自分が加入している健康保険に家族を加入させると保険料が安くなります。

共済組合

共済組合は、国家公務員・地方公務員とその被扶養者を対象とした公的医療保険制度です。

保険料は、健康保険と同様、被保険者の標準報酬月額に一定の保険料率を乗じて算出されます。

被保険者と生計を一にする被扶養者についても同様です。

後期高齢者医療制度

後期高齢者医療制度は、高齢者の医療費負担を軽減するために創設された公的医療保険制度です。75歳以上の方が加入でき、原則として医療費の1割を窓口で支払うだけです。また、65歳以上の一定の障がいをもっている方も、希望により加入できます。

保険料は2年に1度、後期高齢者医療広域連合で見直しが行われます。保険料の徴収方法は2種類あります。公的年金から保険料を天引きする「特別徴収」と、納付書などで保険料を納める「普通徴収」です。公的年金を年間18万円以上受給している人は、原則として公的年金から保険料が差し引かれます(特別徴収)。

現役世代と同等の所得がある世帯(課税年収145万円以上、または年収383万円以上)は、後期高齢者医療制度に加入していても、保険料の3割を負担する必要があります。

令和4年10月1日から、医療機関等の窓口で支払う医療費の自己負担割合が、現行の「1割」または「3割」に、新たに「2割」が追加され、「1割」「2割」「3割」の3区分となりました。
 一定以上所得のある方は、現役並み所得者(3割負担)を除き、自己負担割合が「2割」になりました。

国民医療費

小学館デジタル大辞泉によると国民医療費の定義は一年間に病気や負傷の治療で医療機関に支払われた費用の総額。健康診断、予防接種、正常な妊娠・出産の費用は含まない。とされています。

少し詳しく解説します。

医療保険と医療費

私たちは病気やケガをしたとき、病院や診療所、調剤薬局などの医療機関で診察や投薬、治療など必要な医療サービスを受けることができます。

その際に発生する費用が医療費です。医療保険制度は、私たちや患者さんが病気やケガをしたときに、かかった医療費の全額を支払わなくてもすむようにするための制度です。

医療費の負担は、原則として患者である私たちが3割を負担します。ただし、義務教育就学前の子どもは2割負担、70~75歳の被保険者は所得に応じて2割または3割負担、75歳以上の高齢者医療制度の被保険者は所得に応じて1割または3割負担となっています。


 医療保険制度では、医療費の一部を自己負担することができますが、病気やケガの内容によっては、自己負担する医療費が高額になることがあります。

そのような場合に備えて、医療保険制度には「高額療養費制度」という仕組みがあり、医療費の自己負担が過度にならないように一定の上限を定めています。医療機関や薬局での自己負担額が月単位で一定額を超えた場合、その超えた分が医療保険から払い戻される仕組みです。


 また、同一世帯で同じ医療保険に加入している人は、1年間(毎年8月1日から翌年7月31日まで)の医療保険と介護保険の自己負担額の合計を計算し、それが一定の基準額を超えた場合、基準額を超えた分が医療保険から支払われる仕組みになっています。この制度は「高額医療・介護合算療養費制度」と呼ばれ、被保険者の負担を軽減するためのものです。

診療報酬制度

医療保険制度の加入者である被保険者が、患者として医療機関で医療サービスを受けた場合、医療機関は提供された医療サービスの対価として診療報酬を受け取ります。医療機関は、診療報酬という形で支払いを受ける。診療報酬には、技術やサービスに対する評価と、物品の価格に対する評価があります。


 診療報酬は、医療保険制度における被保険者や保険者から支払われる。医療機関は患者負担分として被保険者から直接支払いを受け、保険者は審査支払機関に診療報酬請求書を提出することにより被保険者から支払いを受けます。


 診療報酬は、医療機関が行う診療などの医療サービスの対価として支払われるもので、保険診療の範囲や内容を定めた「項目表」と、個々の診療の価格を定めた「価格表」の性格を持つ。具体的には、診療報酬は、医療機関が行う医療行為ごとに各項目に1点ずつ加算され、1点の単価が10円となっています。
 例えば、胃がんで入院した場合、初診料、入院日数に応じた入院料、胃がん手術料、検査料、薬剤料が加算され、医療機関は審査支払機関から患者の一部負担金を差し引いた合計金額を受け取ることになる。保険者は、審査支払機関の審査請求に基づき、審査支払機関に請求された診療報酬額を支払います。
 診療報酬の改定は、2年に1度、厚生労働大臣が設置する中央社会保険医療協議会(中医協)で審議され、厚生労働大臣の諮問・答申を受けて決定されます。

医療費の種類

医療費には、医科歯科診療にかかる医療費、薬局調剤にかかる医療費、入院中の食事・生活介護にかかる医療費、訪問看護にかかる医療費などが含まれます。医療費は、医療保険給付、後期高齢者医療制度や公費負担医療制度による給付、医療機関等を受診した際の自己負担医療費等の合計額です。
 医療費は、制度区分、財源、診療科目別に次のように整理することができる。
 

まず、医療費は制度区分別に以下のように分類されます。

①健康保険組合、全国健康保険協会(協会けんぽ)、国民健康保険、共済組合など他の医療保険の被保険者に対する給付としての医療保険給付

②後期高齢者医療制度による給付としての後期医療給付

③生活保護法による医療扶助や公害による健康被害に対する補償などの給付としての公費負担医療給付

④患者が負担する患者負担医療給付。

次に、医療費を制度の区分別に見てみます。

①医療保険制度の加入者である被保険者や事業主が負担する保険料

②国庫や地方公共団体からの拠出金である公費

③医療機関にかかる患者が負担する自己負担金(公害等による健康被害を含む)に分けられる。(医療機関等への患者負担金(公害、健康被害等の原因者が負担するものを含む。)

さらに、医療費は診療科目別に以下のように分類しています。


①診療に要した医療費(医科診療医療費)

②歯科診療に要した医療費(歯科診療医療費)

③処方箋に基づき保険薬局で提供された薬剤の額(薬局調剤医療費)

④入院時食事療養費、食事療養標準負担額、入院時生活療養費および生活療養標準負担額の合計額(入院時食事・生活医療費)

⑤ 訪問看護療養費および基本利用料の合計額(訪問看護医療費)

⑥健康保険等の給付対象となる柔道整復師・はり師等による治療費、移送費、補装具等の費用(療養費等)

高齢者医療制度

高齢者医療制度とは?

2008年4月、従来の公的な高齢者医療制度に代わり、新たな高齢者医療制度が創設されました。
この制度では、高齢者を65歳〜74歳の「前期高齢者」と75歳以上の「後期高齢者」に分け、前期高齢者は従来通り医療保険に加入しますが、給付費の負担は健康保険組合や国民健康保険などの保険者間で調整されます。
後期高齢者は従来の医療保険から除外され、都道府県の広域連合が運営する「後期高齢者医療制度」に加入することになります。

画像:法政大学健康保険組合より引用

給付の内容

公的医療保険の給付は、原則、(1)医療給付、(2)現金給付 に分けられます。

具体的には、それぞれ、以下のような給付があります(なお、給付の名称は制度によって異なる場合もあります)。

医療給付

1.療養の給付について解説します

病気やケガで医者にかかったとき、自分で支払う費用は実費の一部です。これは「3割負担」と言われているものです。残りの費用は、「療養の給付」という形で公的医療保険制度から支払われます。

具体的には、次のようなものが対象となります。

義務教育就学前  8割(従って、自己負担は2割)
義務教育就学後から70歳未満  7割(自己負担は3割)
70歳以上75歳未満  8割(ただし、現役並みの所得を有する者は7割)(自己負担は2~3割)
75歳以上  9割(ただし、現役並みの所得を有する者は7割)(自己負担は1~3割)

2.入院時食事療養費、入院時生活療養費(65歳以上)

入院時には、食事療養費として、一食当たり定額(360円)が、65歳以上の場合には、生活療養費として、一食当たり定額と居住費が支払われます。

3.高額療養費

1.で述べたように、医療サービスを受けると、その医療費は自己負担が発生します。この医療費の自己負担額が高額になった場合、一定額を超えた部分は公的医療保険から払い戻されます。これを「高額療養費」といいます。

高額療養費とは、1ヶ月間(1日~末日)に支払った医療費が、自己負担限度額を超えた場合に支給されるものです。高額療養費の対象となる医療費は、1つの医療機関で1ヵ月にかかったものに限られ、1つの医療機関でも医科と歯科、入院と外来の費用は別々に計算されます。

高額療養費についてさらに詳しく知りたい方は下記の厚生労働省から発信されている資料を参照ください

出典元:高額療養費制度を利用される皆さまへー厚生労働省

4.訪問看護療養費

在宅の難病等患者が、かかりつけ医の指示に基づき、訪問看護ステーションから派遣された看護師または保健師から看護・介護を受けた場合、上記1.の療養の給付に準じて支給されます。

現金給付

 1.出産育児一時金

被保険者や被扶養者が出産した場合、健康保険や共済制度から一定額(原則42万円)が支払われます。国民健康保険の場合、支給額は条例によって異なりますが、ほとんどの保険者が同額を支払っています。なお、後期高齢者医療制度では、出産に対する給付はありません。

 2.埋葬料

被保険者やその被扶養者が死亡した場合、健康保険や共済制度では埋葬料として一定額(5万円)が支給されます。国民健康保険や後期高齢者医療制度の場合、支給額は条例によって異なりますが、後期高齢者医療制度の市町村や広域連合では、1万円から5万円程度を支給することが多いようです。

 3.傷病手当金

健康保険や共済制度の場合、次のような傷病手当金が支給されます。ただし、国民健康保険と後期高齢者医療制度の場合、給付は任意であり、実際に給付している市区町村や広域連合はありません。

傷病手当金は、被保険者が業務外の事由により療養のため労働することができない場合に、1日につき標準報酬日額の3分の2に相当する額を1年6カ月を限度として支給されるものです。

 4.出産手当金

健康保険や共済制度の場合、次のような出産手当金が支給されます。ただし、国民健康保険・後期高齢者医療制度の場合は、任意給付であり、実際に支給している市区町村や後期高齢者医療広域連合はありません。

出産手当金は、被保険者の産前産後休業期間(出産の日以前42日から出産の日以後56日まで)に、1日当たり標準報酬日額の3分の2に相当する額が支給されます。

 5.移送費

歩行が著しく困難で、治療のために通院または入院・転院が必要な方。骨髄液や臍帯血を搬送した場合、基準内であれば、かかった費用の100%が支給されます。

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