看護師国家試験では、出題範囲の中に、必修問題として【中項目】に介護保険制度の基本という項目があります。問われる内容は以下の通りです。
- 保険者
- 被保険者
- 給付の内容
- 要介護・要支援の認定
- 地域支援事業
保険者
介護保険の保険者は、介護保険制度を運営する日本全国の市町村と特別区(東京23区)です。保険者は、その地域に住む40歳以上の人を介護保険の加入者(被保険者)として指定し、受け取った保険料を財源として、被保険者が介護を必要とするときに介護サービスを提供することにより、介護保険制度を運営しています。
1997年に制定された介護保険法では「保険者」について、次のように定義されています。
介護保険法(平成九年十二月十七日法律第百二十三号)
第一章 総則
(保険者)
第三条
1. 市町村及び特別区は、この法律の定めるところにより、介護保険を行うものとする。
2. 市町村及び特別区は、介護保険に関する収入及び支出について、政令で定めるところにより、特別会計を設けなければならない。条文だけを読むと少し難しく感じるかもしれませんが、「市町村や特別区が保険者となり、公費と保険料で介護保険制度を運営すること」と法律により定められています。
保険者の役割
保険者は、介護保険加入者の資格管理、被保険者台帳の作成、被保険者証の発行・更新を行います。また、保険者は「居住地特例」という制度も運営しています。これは、被保険者が施設入所により居住地と異なる市区町村に転居した場合でも、もともと居住していた市区町村で介護保険の給付や保険料の支払い・徴収が継続される制度です。
また、第1号被保険者の介護保険料率を決定し、保険料を徴収する仕組みになっています。徴収された保険料と公費で、介護サービス利用費用の9割(被保険者の所得に応じて8割または7割)が負担されます。
保険者の役割は、要介護・要支援認定に関わる事務と審査です。要介護(要支援)被保険者からの申請を受けて、検査員が被保険者の自宅や施設を訪問し、被保険者の心身の状態をチェックします。そして、その情報をコンピューターに入力し、一次判定を行います。要介護(要支援)認定を公正・公平に審査・判定するために「介護認定審査会」が設置され、そこで二次判定が行われます。介護認定審査会は、保健・医療・福祉などの学識経験者で構成され、複数の市町村が共同で設置することが可能です。要介護度が判定されると、認定結果が被保険者証に記載され、保険者に返却されます。
こうした介護保険に関する事務手続きや給付のほかに、地域支援事業を実施するのも保険者の役割です。保険者は、介護予防支援事業や地域包括支援センターの運営など、要支援・要介護状態の予防につながるサービスの提供や、介護に関する相談窓口の設置・運営も行っています。
被保険者
介護保険の被保険者は、65 歳以上の方(第1号被保険者)と、40 歳から 64 歳までの医療保険加入者(第2号被保険者)に分けられます。第1号被保険者は、原因を問わずに要介護認定または要支援認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。また、第2号被保険者は、加齢に伴う疾病(特
定疾病※)が原因で要介護(要支援)認定を受けたときに介護サービスを受けることができます。
特定疾病の選定基準の考え方
特定疾病については以下のように定義されています。
特定疾病とは、心身の病的加齢現象との医学的関係があると考えられる疾病であって次のいずれの要件をも満たすものについて総合的に勘案し、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因し要介護状態の原因である心身の障害を生じさせると認められる疾病である。
1) 65歳以上の高齢者に多く発生しているが、40歳以上65歳未満の年齢層においても発生が認められる等、罹患率や有病率(類似の指標を含む。)等について加齢との関係が認められる疾病であって、その医学的概念を明確に定義できるもの。
2) 3~6ヶ月以上継続して要介護状態又は要支援状態となる割合が高いと考えられる疾病。
特定疾病の範囲
特定疾病については、その範囲を明確にするとともに、介護保険制度における要介護認定の際の運用を容易にする観点から、個別疾病名を列記している。(介護保険法施行令第二条)
- がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。)※
- 関節リウマチ※
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病※
【パーキンソン病関連疾患】 - 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症※
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
(※印は平成18年4月に追加、見直しがなされたもの)
給付の内容
介護保険は、医療保険のように実際に受けた医療費の一定額を保障するのではなく、介護状態に応じて、あらかじめ決められた介護サービスの中から必要なサービスを利用することができます。
介護保険制度における保険給付は、要介護者に対する介護給付、要支援者に対する予防給付及び市町村が条例で定める市町村特別給付の3種類です。
一覧は以下の通りです。
出典元:厚生労働省
介護給付を行うサービス
「介護給付」は、実際に自分で生活することができないため、施設への入所、在宅での介護、施設への通所などにより、日常生活を支援するサービスです。
居宅介護サービスとしては、入浴介助、訪問看護、デイサービスなどが受けられます。通所サービスとしては、ショートステイなどです。施設サービスとしては、老人ホーム、老人保健施設などへの入居によるサービスを受けることができます。
要介護認定を受けた方が利用できるサービスは、次のとおりです。
居宅サービス
- 訪問サービス
訪問介護
訪問入浴介護
訪問看護
訪問リハビリテーション
居宅療養管理指導 - 通所サービス
通所介護
通所リハビリテーション - 短期入所サービス
短期入所生活介護
短期入所療養介護 - その他
特定施設入居者生活介護
福祉用具貸与
特定福祉用具販売
居宅介護支援
居宅要介護者が居宅サービスなどの適切な利用をすることができるよう、サービス事業者その他の者との連絡調整などを行います。また、必要に応じ、地域密着型介護老人福祉施設または介護保険施設への紹介などを行います。
施設サービス
- 介護老人福祉施設
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 介護医療院
地域密着型サービス
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 夜間対応型訪問介護
- 認知症対応型通所介護
- 小規模多機能型居宅介護
- 認知症対応型共同生活介護
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
- 複合型サービス
- 地域密着型通所介護
予防給付を行うサービス
「予防給付」は、要介護状態の発生を予防する観点から、支援を必要とする方に提供されるものです。介護給付のサービスと重複する部分もありますが、受けられる介護の程度は軽く、補助的な介護となっています。
これらのサービスを受けるには、申請手続きを経て、本人または家族とケアマネジャーが相談し、利用するサービスを選択します。
要支援1、2の認定を受けた方が利用できるサービスは、次のとおりです。
介護予防サービス
- 訪問サービス
介護予防訪問入浴介護
介護予防訪問看護
介護予防訪問リハビリテーション
介護予防居宅療養管理指導 - 通所サービス
介護予防通所リハビリテーション - 短期入所サービス
介護予防短期入所生活介護
介護予防短期入所療養介護 - その他
介護予防特定施設入居者生活介護
介護予防福祉用具貸与
特定介護予防福祉用具販売
介護予防・日常生活支援総合事業
- 訪問型サービス
介護予防型訪問サービス
生活援助型訪問サービス
サポート型訪問サービス - 通所型サービス
介護予防型通所サービス
短時間型通所サービス
選択型通所サービス
介護予防支援
居宅要支援者が介護予防サービス等の適切な利用などをすることができるよう、サービス事業者その他の者との連絡調整などを行います。
地域密着型介護予防サービス
- 介護予防小規模多機能型居宅介護
- 介護予防認知症対応型通所介護
- 介護予防認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
市町村特別給付
市町村特別給付は、要介護者または要支援者に対して、市町村が条例で定めるところにより行うその市町村独自の保険給付です。要介護者に対して行う介護保険制度上の保険給付であることから、要介護状態の軽減もしくは悪化の防止または要介護状態となることの予防に資する保険給付である必要があります。
主な内容は以下の通りです。
- 配食サービス
- 紙おむつの支給
- 通所入浴サービス
- 寝具乾燥サービス
- ケーブルカーの利用
- 移送サービス
- 認知症訪問支援サービス
要介護・要支援の認定
1 要介護(要支援)認定とは
介護保険のサービスを受けるためには,市町から「要介護者」又は「要支援者」であることの認定を受ける必要があります。
※ 要介護状態は5段階(要介護1~5),要支援状態は2段階(要支援1,2)に区分されています。
2 要介護(要支援)認定の流れ
(1) 申請
介護サービスを受けようとする被保険者は市町に要介護(要支援)認定の申請をします
(2) 認定調査の実施,主治医意見書の作成
・ 認定調査員が被保険者の心身の状況等を調査します(認定調査)
・ 主治医が主治医意見書を作成します
(3) 一次判定
認定調査結果と主治医意見書をもとにコンピュータ判定を行います
(4) 二次判定
保健・医療・福祉の学識経験者により構成される介護認定審査会により,
一次判定結果,主治医意見書等に基づき審査判定を行います
認定の区分は、軽い順に自立(非該当)、要支援1.・2、要介護1・2・3・4・5
となります。介護度が重くなるほど介護が受けられる量(支給限度額)も多くなります。
自立(非該当)とは
基本的日常生活動作(BADL)を自分で行うことが可能、かつ手段的日常生活動作(IADL)を行うことも可能な状態を「自立」といいます。
介護や支援は不要で、認定調査の結果は「非該当」となるため、65歳以上であっても介護給付、予防給付は受けられません。
※基本的日常動作・手段的日常生活動作とは
基本的日常生活動作(BADL)は食事や排泄、入浴、歯磨きなどの日常生活で習慣的に行われる動作をいいます。
それに対して、調理や清掃、洗濯、買い物などの家事、交通機関を利用した外出、服薬管理や金銭管理といったより高度な日常生活動作が手段的日常動作(IADL)です。
これら2つをまとめて日常生活動作(ADL)といいます。
要支援とは
基本的日常生活動作をほぼ自分で行うことが可能で、現時点で介護が必要ではないけれども一部支援が必要な状態を「要支援」といいます。
要支援は要介護よりも介護度は軽くなりますが、このまま年月を経ると要介護になることが予想される状態です。
要支援1と要支援2に区分されています。
要支援では介護保険サービスは受けられませんが、介護予防サービスを受けられます。
運動機能向上、栄養改善、口腔機能の向上などを目的に、生活習慣の見直しや運動などによって要介護状態になることを予防するためのサービスです。
◆要支援1
要介護状態区分の中で最も軽く、ほとんど介護を必要としない状態です。
ただ自立(非該当)と異なるのは、日常生活の中の一部で見守りや支援が必要なところがある点です。
◆要支援2
要支援1と同様にほとんど介護を必要とせず食事や排泄も自力で行えますが、要支援1と比べてより支援を必要とする状態です。
具体的には、立ち上がるときや片足で立つときなどに助けが必要だったり、移動(歩行)時に支えが必要だったりします。
要介護とは
日常生活上の動作を自分で行うことが困難で、何らかの介護を要する状態を「要介護」といいます。
要介護1~要介護5に区分されており、数が大きくなるにしたがって介護度は重くなり、より介護が必要な状態になります。
◆要介護1
要支援よりも手段的日常生活動作を行う能力がさらに低下し、部分的な介護を必要とする状態です。
時折、物事への理解の低下が見られ、混乱することがあります。
◆要介護2
要介護1の状態に加えて、基本的日常生活動作についても部分的な介護を必要とする状態です。
例えば食事や排泄などで助けが必要になることがあります。
◆要介護3
要介護2の状態と比べ、基本的日常生活動作、手段的日常生活動作を行う能力がともに著しく低下します。
家事などの身の回りのことや立ち上がり、歩行、排泄など、これまで助けがあれば自分でできていたことができなくなり、全面的な介護を必要とする状態です。
◆要介護4
要介護3の状態に加えて、さらに日常生活動作能力が低下した状態です。
物事への理解も著しく、常に不安行動が見られます。
介護なしで日常生活を営むことは困難といえるでしょう。
◆要介護5
要介護4の状態からさらに動作能力が低下し、助けがあっても全てのことにおいて自力でできない状態です。
要介護状態区分の中で最も重く、介護なしで日常生活を送ることはほぼ不可能といえます。
地域支援事業
地域支援事業は、平成18年4月に創設されました。その目的・趣旨は以下のとおりです。
地域包括ケアシステムの実現に向けて、その充実・強化の取組について地域支援事業の枠組みを最大限活用するという事が述べられています。地域包括ケアシステムは「高齢者になっても1人1人の尊厳を保つことを前提として、たとえ重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができる」というビジョン(=目的)を達成するための手段でした。
次に紹介する資料は厚生労働省が出している地域支援事業についてのものです
その事業内容は
ツールは多様性があったほうがあらゆる物事に対応しやすいので、地域支援事業の内容も分野、サービス内容について多様性をもたせたデザインになっています。
その内容としては
- 介護予防・日常生活支援総合事業 (=通称:総合事業)
・介護予防・生活支援事業
・一般介護予防 - 包括的支援事業
- 任意事業
の3つの事業から成り立っています。
その筆頭が、「介護予防・生活支援事業」と「介護予防全般」からなる「総合ケア事業」です。つまり、まずその人(利用者)自身の可能性を追求し、それが不十分な場合は日常生活を中心としたフォローアップを行うことで、自立した生活の実現を目指すという事業です。
さらに、これらの活動を地域全体で包括的に支援する「包括的支援事業」を展開しています。
具体的には、多様な専門的視点を合わせた方がより効果的で効率的に目的達成をすることができるだろうということで「地域ケア会議」、「在宅医療と介護の連携」などの事業を行うことになっています。
また、予防を実現するためには、本人の潜在能力が向上しても、常に社会参加の機会を持つこと(役割やつながりを持つこと)が重要です。そのためには、地域のあらゆる資源と出会い、関係を構築していくことが必要です。そこで、本人が強みを持つ「生活支援サービスの仕組みづくり」を担う「生活支援コーディネーター」という新たな役割を設けました
また認知症についてはあらゆるフェーズで多様なカタチで向き合っていくことが求められてきており、「認知症施策の推進」も重要視されています。